行財政改革の現場と問題点を探る

愛知県知多半島の付け根にある人口39,219人の高浜市は、埼玉県の志木市と並んで全国から注目されている地方自治体です。
小泉首相や竹中大臣も高浜市の行財政改革を高く評価しており行財政改革の先進事例として紹介しています。
今回行政視察で高浜市と豊川市の行財政改革への取り組みと名古屋市有松の「有松絞り」を中心にした街づくりを視察してきました。
この機会に皆さんにも先進自治体の行財政改革の実例と問題点を知っていただきたいと思います。


高浜市の行政改革の実例

高浜市は第一次行政改革大綱(60年)で「公共施設の管理運営の合理化」を掲げ、平成3年4月高浜市施設管理協会を設立しています。
そして平成7年には「高浜市が5,000万出資」して「高浜市総合サービス株式会社」を発足させています。
この株式会社設立目的は高騰する公務員人件費枠の抑制と、公務員に代わって行政事務を行うために設立されました。
会社の取締役12名の大部分が民間出身で、会社の代表者や税理士などで構成されており、全員無報酬で会社運営に携わっています。
「この会社は市から仕事を受注し職員に代わって行政の仕事」をしています。
仕事の内容を見ると

・市民課窓口サービス業務
・税務課窓口サービス業務
・水道課窓口サービス業務
・水道メーター検針事業
・水道事業料収納事業
・スポーツ施設管理運営事業
・公民館管理運営事業
・老人保健等受給者管理業務
・児童手当受給者管理事業
・公共駐車場管理事業
・図書館管理事業
・小、中、幼稚園用務員サービス業務
・保育園給食サービス事業
・小学校給食サービス事業
・中学校給食サービス事業

この他サービス会社が市から受注している仕事は約50種類にも達しています。
この会社の年次別総売上をみると

平成7年度 243,562,000円
平成8年度 273,833,000円
平成9年度 299,537,000円
平成10年度 335,550,000円
平成11年度 356,359,000円
平成12年度 387,234,000円
平成13年度 397,462,000円
平成14年度 516,613,000円
平成15年度 607,388,000円
平成16年度 629,434,000円

総売上に占める市からの受注額をみると

平成7年度 204,675,000円
平成8年度 214,309,000円
平成9年度 248,067,000円
平成10年度 277,231,000円
平成11年度 288,938,000円
平成12年度 318,330,000円
平成13年度 328,232,000円
平成14年度 422,768,000円
平成15年度 482,616,000円
平成16年度 479,824,000円

総売上が伸びるとともに、市から受注する仕事も確実に伸びていることが分かります。
次に社員数の推移についてみていきます。
平成7年に98名でスタートした株式会社も平成16年には227名にもなっています。

平成7年 98名 平成12年 176名
平成8年 116名 平成13年 177名
平成9年 135名 平成14年 202名
平成10年 154名 平成15年 224名
平成11年 153名 平成16年 227名

16年度の正規社員と臨時社員の割合は
正規社員 71名に対して臨時社員156名となっています。
また男女の割合は女性166名に対して男性61名となっています。
「社員の給料は公務員の半額」でボーナスなどは公務員に準じて支給しています。

では次に
「市が会社に仕事を委託したことで行政経費をどれだけ削減できたか」
見ていきます。
平成16年度、高浜市総合サービス株式会社への業務委託33の事業で、総合サービス「会社社員」と「市職員」で対応した場合を比較すると

「総合サービス株式会社」
正社員 62名
臨時社員 78名
合計人員 140名
市からの受注金額「人件費」 383,264,000円

「市職員がした場合」
行政職30人
一般労務職 83名
合計人員 113名
必要な「人件費」 791,865,000円

「公務員が33の仕事をした場合」に対して総合サービス会社で408,601,000円の人件費の削減になっています。
高浜市では受付業務やいたるところで総合サービス会社の社員が公務員と一緒に仕事をしています。

公務員と会社員が同じ仕事ができるのであれば「高い給与の公務員から安い社員に」切り替えていくのは税金の有効な使い方として当然のことではないでしょうか。


豊川市の行政改革の実例

   豊川市は人口120,689人(16年)の市で、全国的には豊川稲荷の街として有名です。
 私が今回豊川市の視察を計画したのは「民間委託件数が他の市に比べて圧倒的に多く行革の効果を挙げている」との議会事務局からのアドバイスによるものでした。
 私が豊川を訪問してまず驚いたことは、行革の推進状況を説明してくれた職員の年齢の低さでした。行政改革は短、中、長期に分け、すぐできるものと、退職予定者数、委託の受け皿、社会的合意などの問題から中、長期にわたるものとがあります。
 豊川市では将来行政の担い手となる若手の職員が改革の先頭を走っていることを実感しました。
 豊川市の特徴はなんと言っても民間委託の多さにあります。

公の施設では
(市民会館、文化会館、老人福祉センター、競技場、野球場、体育館、プールなど)
委託済み(一部委託を含む)134施設

公の施設以外では
(公園、図書館、公民館、給食センターなど)
委託済み(一部委託を含む)187施設
      ≪委託合計  321施設≫

そのほかの事務関係の委託では
 保育実施委託、設計、調査委託、健康診査委託、徴収業務委託、給食センター業務委託、道路維持管理業務
 このほかにも交通災害共済事業の廃止、文化自主事業の廃止など廃止事業数は10年度から7事業となっています。
 委託はすべて条例に基づいて競争入札を実施しており、今回の指定管理者制度導入に当たっても、委託後の行政の責任として「一年毎に委託料の見直し」を行い、委託料が適正に支払われるような仕組みをしていました。
 豊川市でも別府の綜合振興センターと同じような組織が存在していました。
 豊川市では公務員退職者が「豊川市施設管理協会」を作って市から文化会館、勤労福祉会館、体育センター、赤塚山公園の管理を受託しています。
 施設管理協会と別府綜合振興センターとの違いは職員給与の大きな違いです。
 豊川市管理協会職員の平均給与は200万ですが、今回の指定管理者制度の導入で「3年間だけの条件」で管理協会を相手に交渉していますが、協会を優先すれば指定管理者制度の導入目的に沿わないとする意見で調整中でしたが、仮に管理協会が指定管理者となっても3年後においては競争入札に移行することが決まっています。
「別府市では綜合振興センターに体育施設など16の施設を優先的に管理させるようにしています」
綜合振興センター職員の平均給与は、15年度673万円で700万以上の給与所得者が8名もいます。
指定管理者制度の導入目的である

1、 民間のノウハウの活用
2、 経費の削減
から見れば指定管理者制度に綜合振興センターが沿わないことは明らかです。
豊川市の改革進捗状況が進んでいることに触れると、説明してくれた職員は「最近では組合からそのような取り組みでは行政効率が向上しないからこのような改革に取り組んではどうかとの指摘もある」と当然のように話していました。

高浜市、豊川市を訪問して感じたのは、別府市の行財政改革への取り組みがいかに遅れ、小手先だけのものか実感しました。
高浜市総合サービス株式会社の深谷総務課長は市からの出向ですが「給与の違う正規の職員と株式会社の社員が同じ仕事をしているのを見て複雑な思いになる」と述べていました。

行財政改革への取り組みでどのような問題点があるのか

直営「公」と委託「民」の全国的な調査による部門ごとのコスト比較を見ていきます。

1、ごみ収集
可燃ごみ収集について、直営と委託のトン当たりの経費を比較してみると
直営 18,389円
委託  8,292円
委託/直営×100=44.6%

不燃ごみ収集について、直営と委託とのトン当たり経費を比較してみると
直営   40,299円
委託   21,825円
委託/直営100=54.2%

上記の実施状況からも委託は直営の半分の経費でごみ収集ができています。

2、直営の経費はなぜ民間に比べて高いのでしょうか
直営が委託に比べて2倍以上の経費がかかっている要因は働き量に大きな差があるからです。
働き量(清掃職員一人当たりの年間ごみ収集量)について直営と委託を比較してみると
直営  477トン
委託  957トン
委託/直営=2.0倍

(民間は直営の2倍の量を集めています。)
つまり、民間は直営の公務員に比べてほぼ2倍よく働くから経費も半分で済んでいます。
働き量に差があるということは次の問題があります。
1車当たり乗者人員は、民間が平均2.1人であるのに対して、直営は平均2.7人で3割り近く人員が多くなっています。
(勤務時間に差がある)
直営は午前11時半頃、午後は3時半ごろ職場に帰るのに対して、民間は通常8時半頃から夕方5時ごろまでびっしり仕事をするとこがほとんどです。(積載量に差がある)
委託業者の場合は、収集車に積載量を超えるほどごみを積載し、ごみを効率よく収集しようとする。

(なぜ、民間と公務員とでは働き量に大きな差があるのでしょうか)

もっとも大きな要因としては、ごみ収集のような現業職員の給与、手当てが民間では能率給(手当て)がとられているのに対して役所では能率給のようなシステムになっていません。
民間ではごみを収集する量に応じて給与、手当てが増額されるシステムになっており、それが働く意欲への刺激となっていますが
「役所では決められた給与で、やってもやらなくても同じ」これが両者の相違を生む大きな原因になっていると考えられます。

学校給食調理について


学校給食調理の民間と直営の経費比較

一食当たり直営と民間委託との経費を比較してみると
   直営    270円 (A)
   委託    128円 (B)
B/A×100=47.4% 委託は直営の47.4%ですんでいます。

次に「正規職員」と「嘱託、パートなどの臨時職員」と経費の比較してみると
職員1人当たりの年間給与は
正規職員           6,477,000円(A)
嘱託、パートなどの臨時職員  1,439,000円(B)
B/A×100=22.2%
嘱託、パートなどの臨時職員は、正規職員の4分の1以下の経費で済んでいます。

民間の経費はなぜ低いのでしょうか
委託が直営に比べて経費が低い要因としては
1、 学校給食調理は通常1日のうち昼間3~5時間程度であり、このため委託ではパート、賃金という形で行われるのに対して、直営は正規の公務員、月給制であるため当然直営が割高となります。
2、 給食調理は土曜日や夏休み、冬休み、春休みなどはありません。
給食調理は年間365日のうち180日~190日程度です。
直営(公務員〕の場合は、休みの期間中も正規の給与が支払われます。

嘱託の経費が安い要因
嘱託、パート等が正規職員に比べて経費が安い要因として上記のことが考えられ、これは給与差をそのまま反映しています。

民営化や民間委託によって生み出される財源は
「直営」(公立)「民間」(委託)、「嘱託、パートなど」に切り替えることによって生み出される額は、
人口10万人規模程度の市で次の仕事を委託すると
ごみ収集で 約2億円
学校給食調理で 約1億円
保育所で 3~5億円
幼稚園で 3~5億円
文化スポーツ施設の管理で 3~5億円
ホームヘルパー(30)人 5千万円
公用車(10~20台)で 5千万円
学校警備で 約1億円
学校用務員で 約1億円
学童保育で 2~3億円
計15億円~30億円が生み出されます。

民間は直営(公)のおおむね半分以下の経費で仕事をしています。
逆にサービス面では民間のほうが優れている、あるいは公:民の差がないという調査結果が出ています。
公(直営)と民(委託や嘱託、パートなどの臨時職員)とでサービスが同じだとすれば税金を公(直営)にだけ2倍以上も投入するのは、著しく不合理、大変な税金の無駄遣いです。

≪行財政改革の課題と方向≫

すでに多くの自治体では「直営」から経費の低い「委託、パート、嘱託」等への切り替えが行われています。
しかし未だ、直営のまま運営されているものも相当あります。
改革を進めるに当たって重要なことは

(常にコストの面から行政を見ること)
税金を効率よく使うという観点から、直営から委託や嘱託、パートなどの臨時職員、指定管理者制度、NPOやシルバー人材センターなどの活用へ切り替えていくことが必要ですが、その際、特に大事なことは、行政を常にコストの面から捉え、眺めていくことです。
これまでは「この仕事にどのくらいの費用がかかっているのか」というコスト意識が希薄でした。
これからは、あらゆる行政の領域において、まず、仕事にどのくらいのかかっているかを算定して、それを別の方式、例えば委託やパートなどに切り替えればどのくらいコストが下がるのか「数字で把握」検討し、
「住民サービスが変わらないのであれば少しでもコストの低い方式に切り替える」
それによって高齢者、児童、障害者福祉や教育、社会資本整備のため財源を生み出すことが必要です。

(コストの公開を)
「納税者に(直営か、民間か)を選択してもらう」
これまでは行政がコストの公開をしなったために、住民も知ることができませんでした。
住民への情報公開でもっとも大事な「行政のいかかるコストを積極的に公開し」いずれの方式をとるのが「税金を効率よく使う」という観点から見て望ましいかを、納税者、住民にもよく考えてもらうことが必要です。
たとえばごみ収集についてみれば、委託だと直営の44.6%のコストで、できる。
したがって残り55.4%は別の新しい街づくりなどの事業の財源に使うことができます。
だからその分だけ税金を生かして使えます。
そしてその翌年もこのような財源が生み出されてくるとすると、同じ税金を2倍、3倍に、さらに4倍、5倍にいかして使うことができます。

(これが直営のままだと)
上述の55.4%分は全部ごみ収集のための経費として使われることになります。
委託の場合には、55.4%分の税金が「生きたカネ」として使われるのに対し、直営の場合は、55.4%税金が「死にカネ」になってしまっているわけです。
だから広く行政のコストを公表し、納税者とともに、税金の使われ方を考えることがぜひとも必要です。

(行政改革は文字だけでなく、数字で示すこと)
これまで多くの自治体で取り組まれてきた「行革大綱」では「委託」とか「OA化」とか「電子自治体」とかの言葉、用語だけが並べられた作文のようでしたが、行政改革は「数字」で示すこと、特に「コストを」をどのように引き下げるかを示すことが極めて重要と考えられます。
委託、嘱託、パートの活用によって生み出される財源はきわめて大きく、行財政改革の中で新たな財源作りという観点から見た場合、きわめて有効な効果の大きい手法だといえます。

最後に総務省が16年3月に発表した「市区町村における事務の外部委託の実施状況」をご報告して報告の締めくくりとしたいと思います。
15年4月1日時点における政令指定都市、中核市、特例市、人口10万人以上の市、特別区、町村「計3,213団体」の主な外部委託の実施状況は次のとおりです。

施設名 市区町村 10万以上の市
一般ごみ収集 84% 90% 「別府は0」
学校給食調理 44% 74% 「別府は0」
水道メーター検針 82% 96% 「別府は委託」
道路維持補修 67% 93% 「別府は0」
保育所 60% 78% 「3園民営化」
体育館 75% 92% 「振興センター」
陸上競技場 75% 95% 「振興センター」
プール 76% 95% 「振興センター」
公民館 73% 81% 「別府市は0」
図書館 74% 91% 「別府市は0」
都市公園 91% 91% 「別府市は0」
参考資料、総務省、日本自治経営学会

皆さんは全国3,213団体の委託状況と別府市を比較してどのような感想をお持ちですか。
浜田さんは市長選挙のとき
「私が市長になったから行革が遅れたとは言わせない」
と大見得を切りましたが現実はどうでしょうか。
浜田さんは市長として行財政改革を進める責任と改革を可能にする権力を市民から与えて貰っています。
大変残念ですが、2年半以上経過したにもかかわらず将来の財政状況や行政組織の姿が見えてきません。
「改革に取り組んだけれど」では市民の理解は得られません。
「市民が求めているのは改革の結果です」
今回ご報告しました高浜市や豊川市、さらに進んでいる春日市、そして全国先進都市のモデルと言われている志木市
これらの市はどこも同じように
「市長の改革にかける情熱や信念が」行革先進市へと導いています。
私は遅々として進まない浜田市長の行革への取り組みが「行革音頭」を歌っているだけにしか見えませんが、皆さんは現状をどのように判断されるでしょうか。

お読みいただきありがとうございました。